『香り花房・かおりはなふさ』では、日本の香りと室礼文化を研究しています。

香り花房 ー『香りと室礼』文化研究所 ー
源氏物語の香り

花橘の香り “花散里(はなちるさと)

 橘は、柑子と呼ばれる2~3センチほどの小さな密柑のことです。
やはり中国から伝来した植物ですが、その渡来はたいへんに古く、古事記や日本書紀にもその記載がみられます。
ここで、「古今和歌集」におさめられた、和歌をご紹介しましょう。

「さ月まつ花橘の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする」

~五月に咲く橘の花の香りをかぐと、昔愛した人が焚き染めていた香りが思い出されます~

橘の花

 花橘のやさしい香りは、かつて縁のあった恋人の思い出を呼び覚ますのでしょう。
 光源氏も、どこからともなく漂い来るこの花の香りをきき、ある女性を思い出すのでした。

「橘の香りをなつかしみほととぎす 花散里を尋ねてぞ訪う」

 “花散里”という方は、源氏が昔愛したきり遠のいていた女性です。
 懐かしさから久しぶりに訪ねてみると、すねる様子もなく以前と変わらない優しさで迎えられ、疲れきっていた源氏の心はなごむのでした。
 その控えめな人柄が、橘の花の香る様子にふさわしく、彼女を表す花として物語に登場します。

六、薫物へ →
Copyright (c) KAORI HANAFUSA All Rights Reserved.