雪月花
ブログメニュー

ブログ更新 その74「芙蓉の香莚 ~香と室礼~①」

2017年6月20日  「芙蓉の香莚(こうえん) ~香と室礼~ ①」

 

 

2017年5月21日に白金の畠山記念館で開催しました

香会「芙蓉の香莚」のお写真ができましたので掲載させていただきます。

 

明月軒・軒菖蒲 「明月軒・軒菖蒲」

折枝の恋文  茶室室礼「折枝の恋文」

 

当日は五月とは思えないほどに気温が上がり、

まぶしい陽射しに包まれての一日となりました。

 

DSC_0636 「畠山記念館・正門」

DSC_0637 「若葉美しい苑内の石畳」

 

 

        

            芙蓉の香莚 

 

日時   平成二十九年五月二十一日(日)   

      ご教授  香道研究家 林煌純(はやしきすみ)先生 「組香 皐月香」  

      於・畠山記念館「明月軒」  

      主・香りと室礼文化研究所「香り花房」宮沢敏子

 

          

            会記

 

明月軒・翠庵       軒菖蒲

受付    京焼色絵仁清写し「雉香炉」          時代物

       唐草蒔絵漆塗り香台「巻き脚平卓」

       香「香木千聚・沈香」                 山田松香木店

 

本席     菖蒲の間「明月軒」  

           床  「杜若圖」大幅                 鈴木其一筆  江戸後期

           脇床  五節句「薬玉飾り」            宮沢敏子造                  

         「懸物圖鏡」公家有職造花木版図譜         西村知備著  江戸時代

 

小間     藤の間「翠庵」

           床  「藤掛松」                     宮沢敏子造

                 ※古来より松は男性、藤は女性の象徴とされ歌や絵に描かれてきました

          「折枝の恋文」木曽桧柾目三宝

                花蝶装飾花結び                宮沢敏子造

                石州紙・裾ぼかし金箔振り巻紙

                和歌          

                「よそにのみ あわれとぞみし うめの花

                       あかぬいろかは をりてなりけり」  素性法師「古今和歌集」

                  訳…今までは遠くよりなんと美しき花と眺めていたが、

                       見飽きることのないその色と香りは

                         手折りてはじめて知ることができるものでしょう。

                 

点心席    芙蓉の間

       床  「絹本蝶芙蓉圖」横幅                狩野探幽筆  江戸前期

          黒漆螺鈿装飾金具春日卓             仏器 

          切支丹花十字紋四季花鳥圖香箪笥     時代物

          正倉院の香料 (白檀・カリロク・丁子・貝香・八角・匂い菖蒲根)

          ※天平時代の香料は、薬と同様に不思議な力が宿るものとして大切に扱われておりました。

 

 

  

 

軒菖蒲  端午の五月にちなみ軒菖蒲で皆さまをお迎えしました。

 

明月軒・軒菖蒲 「明月軒」

 

2017-06-06 02.11.39 「翠庵」

 

軒菖蒲に用いる菖蒲葉は、

花を観賞する花ショウブとは別の品種になります。

根元や茎に独特の爽やかな芳香をもつこの植物は、

古来より薬用とされてきました。

 

DSC_0529 「菖蒲湯」

 

端午の節句近くになると、

お風呂に入れるための菖蒲葉が

店先に売られているのを見かけることでしょう。

ガマの穂に似た小さな花をつける匂い菖蒲は、

主に端午の節句用に生産されています。

 

ですので今回お花やさんにお願いしたところ、

もう切り尽くしてしまったとのお話でしたが、

生産者さんの尽力により

見事な菖蒲葉と蓬をご用意することができました。

 

DSC_0597 生き生きと薫り高い草の息吹に驚かされます

 

同じ時期にスクスクと葉を伸ばす蓬も大変薬効が高い植物として知られていますが

この菖蒲と蓬とを合わせて軒に葺くことで、

病がでやすい梅雨にむけて心身の穢れを祓い

邪気や厄災が家に入り込むのを封じ込めるという意味合いがあるのです。

 

 

DSC_0602 室内から眺める景色

 

私自身はじめて自ら軒菖蒲をおこないましたが、

なんとも気持ち良く、

清々しい芳香が風に乗って室内へと吹き込まれます。

 

 

 

明月軒そして翠庵は、

植物でしつらえた結界によって浄化された空間となりました。

京都の俵屋旅館などで現在でも行われている軒菖蒲ですが、

見かけることの少なくなった趣ある美しい景色に、

皆さまより感嘆の声があふれます。

 

それでは、各部屋の室礼を見ていきましょう。

今回は『藤の間』 『菖蒲の間』 『芙蓉の間』と名付け、

それぞれに季節を彩るお花にちなんだ装飾を施しました。

 

 

受付

 

2017-06-06 02.12.36 「京焼色絵仁清写し 雉香炉」

 

2017-06-06 02.12.41

石川県立美術館所蔵の

国宝・野々村仁清色絵雉香炉の写しとなる香炉に

甘さを控えた沈香のお香をたきしめお客様をお迎えです。

 

 

~藤の間~ 小間「翠庵」

 

玄関をお入りいただきましてすぐ右手に、

三畳半台目の小さな茶室「翠庵」があります。

 

小間翠庵 「藤掛松と折枝の恋文」床飾り

 

以前、著名な花人であられる川瀬敏郎さんの花会は、

ここ畠山記念館で例年行われていました。

本当の場で花を見ることの大切さを私たちに教えてくださったのです。

 

今回の会はそうした先生の教えに習い

通い続けてくださる生徒の皆様に、

ぜひ正式な場をご体験いただきたいと思う気持ちからはじまりました。

どこまでできるか判りませんが、

私が今できることを精一杯行ってみようという挑戦でもあったのです。

 

この小さな三畳半台目の茶室に、

先生は時代をまとった古胴の蓮型花器に

スクッと立ち上がる蓮を生けられました。

薄暗い空間で拝見するその花は、

シーンと限りなく静かに佇み、

まるで菩薩様が立ち現れたかのように感じたことを思い出します。

 

 

小さな茶室は昔から憧れて止まない空間でした。

 

室礼をほどこし終えて静かに座っていると

障子越しに蹲踞の水音が聞こえてきます。

 

目に映るものは樹の柱・天井、イグサの畳、土壁そして和紙の障子のみ

すべてが柔らかい光に包まれてなんと心地良いことか。

皆さまをお迎えするために朝から緊張し続けだった身体が解きほぐれ

次第に心も落ち着きを取り戻していくのでした。

 

さらに眼をつむり座っていると、

人が最後に求める世界とは、

こうした安らぎなのではないかと感じます。

 

 

スタッフの人に声を掛けられ目覚めたように現実へと戻りました。

 

私は今回、この素晴らしい空間に

平安人の繊細な恋模様をあらわしてみたいと考えました。

 

藤掛松 「藤掛松」

 

藤掛松   

藤の蔓がまるで恋人に寄り添うかのように松の枝に絡まる光景は、

松を男性・藤を女性の象徴として古来より歌に詠まれ絵に描かれてきました。

 

この度は野性の山藤を思い描き、

五葉松にからまりながら

楚々とした紫の花を垂らす藤花の光景を再現しています。

 

畳床には、

手漉石州和紙に恋の和歌をしたため

つまみ細工の蝶や布花・金物装飾で化粧をした花結びを添え

藤掛松の折枝とともに檜三宝へと飾りました。

 

 

折枝の恋文 「折枝の恋文」花蝶装花結び

 

では、折枝とはいったいどうゆうものなのかご説明しましょう。

 

 

折り枝(添え枝)   

 

電話もメールもない平安時代の人々は、

和歌をしたためた文を交わすことで自分の気持ちを伝えていました。

 

当時は、身分の高い女性ほど他人に顔を見せることはなく、

姫君につかえる乳母や女房に守られて

寝殿造りの奥深くに隠れるように暮らしていました。

ですから男性は聞こえてくる噂や、

垣間見る気配を頼りに恋心をつのらせていったのです。

源氏物語では、光源氏が女性の住まいを覗き見する描写が、

文中にいくつも登場します。

 

男性は自分の気持ちを伝えるべくまず最初に文を届けます。

公達から届けられた文は、

本人というよりもお姫様についている女房たちに渡り品定めされることになります。

和歌は巧みか、筆の流れは美しいか、

紙の種類・色・焚き染められた香の香りは高貴なものか、

などなど届けられた文を見て

うちのお姫様にふさわしいお相手かを品定めされるのです。

 

そしてこのお方ならばと許された公達は、

女房の手引きによりはじめて屋敷に入り

お姫様と契りを結ぶことができるのです。

 

 

手紙の趣向のひとつであった折枝ですが、

季節の植物を手折り恋しい女性に贈るという風習は、

世界各国で行われてきたといえるでしょう。

 

DSC_0435 紫は当時、最も高貴な色として愛されました

 

 

今回したためた和歌は、

 

『よそにのみ あわれとぞみし うめの花 

            あかぬいろかは をりてなりけり』

「古今和歌集」素性法師(そせいほうし)より

 

今までは遠くよりなんと美しき花と眺めていたが、

見飽きることのないその色と香りは

手折りて初めて知ることができるものでしょう。

 

親しい関係を結んでこそ初めて本当の素晴らしさが判るもの、

私はもっと貴方のお近くに参りたいのです。

 

と熱き恋心を伝えているのです。

 

                     DSC_0599    

 

 

          

2017年6月19日 up date
雪月花一覧へ戻る
↑このページの一番上へ