『香り花房・かおりはなふさ』では、日本の香りと室礼文化を研究しています。

香り花房 ー『香りと室礼』文化研究所 ー
香りの情景

春の草花の香り

妖精にとりつかれた人々

 18世紀から19世紀のビィクトリア朝時代にかけて、イギリスでは妖精の不思議な魅力にとりつかれた画家たちにより、たくさんの幻想的な絵が描かれました。
 中には、リチャード・ダッドのように父親を刺殺した後、現実と異次元との世界をさまよい、精神を病んだまま妖精を描き続けた者も少なくありません。
 ダッドの絵には、太古のビィーナスを思わせる魅惑的な妖精と怪しい魔物のような妖精の姿が、画面全体に緻密に描かれています。
 1998年にロンドンを訪れた私は、ロイヤルアカデミー美術館でその絵を目にすることができました。
 美しく可憐な姿として描かれることの多いフェアリーの中で、異彩を放つ力強いダッドの作品の前に立ったとき、彼こそが妖精の真の世界を描ききったのかもしれないと感じたものです。
 画面の無表情な妖精のまなざしは、文明の名の元に自然を破壊し尽くしている人間を拒絶する、悲しさや怒りが現されていました。

 また、有名な「名探偵シャーロックホームズ」を生み出しシリーズとして定着させた英国の作家アーサー・コナンドイルの一族もまた、妖精にとりつかれていたといえるでしょう。
 才能をもちながらも画家の道を断念していた彼の父親は、いつしかアルコールにおぼれ、次第に夢うつつの世界にまどろむように、妖精の絵を描きはじめるのでした。
 そうした父親を優しく見守りながら、小説の世界で名声を得ていくコナンドイルですが、ある事件をきっかけに、彼もまた妖精の世界へと巻き込まれていくことになります。

リチャード・ダッド「妖精打者の最後の一撃」一部分

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