雪月花
ブログメニュー

その63「日本の香り事始め 3~飾る~」五節句・七夕

2016年4月26日

 

『日本の香り事始め』     供える

                     くゆらす

                      飾る

                      清める

                      身に纏う

 

 

 

 

『日本の香り事始め』 ~その参「飾る」~

 

あなたの記憶の扉を開いてみると、

幼い日から積み重ねてきた

多くの香りの印象が刻み込まれていることでしょう。

 

人間がいてそして自然がある

という西洋の考え方に対し、

自然とともに人は存在する

という東洋的思想の中で暮らしてきた私たちにとって、

自然と共に歩むことは当たり前のことであり

また、大きな喜びでもありました。

 

知床つめくさ

 

四季の移り変わりとともに食卓を彩る旬の素材、

順番を待つように咲き始める花々、

山肌を眺めれば芽吹きから若葉そして成長し枯れ落ちるまでの樹々の営みに

人の一生を重ね合わせることもあったことでしょう。

 

季節を大切に過ごす

日本の人々に継承されてきた五節句の風習には、

自然からはなたれる芳香があふれているのです。

 

お教室で制作してきた様々な室礼飾りを振り返りながら

四季折々の日本の香りを

ご一緒に思い浮かべてみることにしましょう。

 

 

七月七日(七夕・しちえ)

七夕は、

牽牛星が天の川を渡り

一年に一度織姫星に会うという中国の伝説が、

日本の棚織姫の信仰と交じり合いできた星祭り。

夜空を眺めて梶の葉に歌をしたためたり、

庭に並べた棚にお供えをし

五色の糸を張るなどして機織や手芸の上達を祈るお祭りです。

「潮騒のポプリ」

潮騒のポプリ

まだまだ幼いと思っていた若葉が

いつの間にか成長を遂げ、

生き生きと力強く息づいてきました。

大地をうるおす梅雨が過ぎ去れば、

まぶしい初夏の光りにつつまれるのも間近でしょう。

さあ今回は季節を先どりして

「潮騒のポプリ」をつくりましょう。

貝殻や砂に苔の香りを揉み込んで作った粘土の珊瑚など

海からの贈り物を飾りつければ、

爽やかな香りとともに遠い潮騒の音が聞こえてくることでしょう・・・。

「香り貝合わせ」

 香り貝合わせ 

幼いころの記憶のひとつに、

砂浜にてんてんと散らばる貝殻をひろいあつめた

思い出があるかもしれません。

それぞれの貝のかたちや色合いには

不思議なおもむきがあり、

未知の世界へと誘うものでした。

平安時代、

宮廷貴族のあいだで流行したあそびのひとつに

「ものあわせ」というものがあります。

絵合わせ、花合わせ、扇あわせ

そして草あわせなど題材はさまざまに、

持ち寄ったものにちなんだ和歌をそえて

その優劣を競うというものでした。

貝合わせも

当初は和歌とともに貝の大きさや美しさ

種類の豊富さなどを競いましたが、

しだいに対となるハマグリを探す

あそびへと発展していきます。

お姫様の婚礼調度品には、

夫婦の幸せを願って

豪華な装飾がほどこされた一対の貝覆いが用意されました。

それでは、貝に詰めた香りを聞きわけてあそぶ

「香り貝合わせ」をつくりましょう。

二枚貝をきれいに洗い、

二つずつ匂いの強い香料を詰めて絹布でくるみます。

さあ、あなたはいくつ香りを当てることができるでしょうか。

「蝉の訶梨勒」

蝉の言可梨勒(かりろく)

その昔、

幻といわれた訶梨勒の実は、

スッとしたニッキのような芳香をそなえていますが、

香料としてだけでなく薬としての価値も高いものでした。

光明皇后が

亡き夫・聖武天皇の冥福を願い

正倉院におさめた数々の御物の中にも

その名は記載されており、

平安時代栄華を謳歌した

藤原道長も服用したと伝えられる訶梨勒は

「一切風病の治療薬」として万病に処方されました。
 

今回は吉祥の文様でもある

蝉をかたどった装飾掛香に、

訶梨勒の実と伝統的な香料を調合しておさめます。

複雑に絡み合うそれぞれの香りは、

やがてひとつの完成された芳香を放ち

雅やかな室礼となることでしょう。

 「蓮の実のポプリ」  

蓮の実のポプリ

「蓮の実のポプリ」には、

終わりを告げ

来世へと命をつなげた植物を集めて盛り付けましょう。

キラキラと水面を揺らす陽の光のように美しい龍脳は、

天上の花にふさわしい蓮に寄り添うようにして香りを放ち

静かにその生涯を讃えます。

龍脳とは、

龍脳木からとれる白い結晶で

スッと頭上へと抜けるような清涼感あふれる芳香と

高い防虫効果から香袋には欠かせない材料といえるでしょう。

20140909_112405

お料理のように中高に

そして立体的に蓮の実のポプリを盛り付けましょう。

ともにしつらえたお軸は、

平安時代に写経された泉福寺「装飾華厳経切」です。

このお軸との出会いは父が亡くなったときでした。

父の葬儀の時、

古物を扱っている義兄がそっと飾ってくれたのです。

私の心が現世を去り天へと召した父へと

向かっていたからでしょうか。

連なる端正な文字を眺めていると

何とも表現しがたい美しさに心が引き込まれます。

それ以後このお経が私の心から離れることはありませんでした。

一年を経たころ

父の供養にぜひ写経を飾りたいと思い立ち相談したところ、

このお軸を譲ってくれたのです。

それからこのお軸は

私の無二の宝物となりました。

蓮のポプリとともにしつらえると、

香りとともに

目を伏せ静かに微笑む

頑固で一途だった父の面影が思い出されます。

 

2016年5月7日 up date
雪月花一覧へ戻る
↑このページの一番上へ