日本の香りと室礼

目次

その壱「供える」

日本は古来より、
中国や朝鮮などアジア諸国の文化を取り入れてきました。
その中でもとくに大きな影響を受けたのが仏教の伝来でしょう。
そしてこのできごとが日本に香りの文化を根付かせることにつながっていきます。

香木が生育しない日本において生まれてはじめて嗅ぐ沈香や白檀の香りは、
なんとも神秘的で経験したことのない陶酔感へと誘うものでした。

「仏教の伝来と香」

まだ日本という国名はなく「倭の国」と呼ばれていた時代、
海を渡ってきた異国からの使者が飛鳥の地の天皇のもとへと訪れます。

「・・・欽明天皇7年(538年)、百済の聖明王の使いで訪れた使者が天皇に
金堂の釈迦如来像一体と経典数巻・仏具などを献上した・・・」

果たしてこの瞬間より、
日本という国に仏教という教えが根付いていくことになります。

仏教の生まれた国“インド”は大変に暑さが厳しい国として知られていますが、
住まいを清潔にたもち自らの体臭を消すため
殺菌作用のある香料を用いる風習がありました。

もともと多くの芳香植物に恵まれた土地柄もあり、
紀元前六世紀頃にお生まれになったお釈迦様の時代以前から
香の使用は欠かせないものとなっていったのでしょう。

故に、
日本への仏教の伝来は異国の香料の伝来でもあり
日本人は今まで触れたことのなかった香りの世界を体験することになったのです。

「香料箱」 沈香・白檀・肉桂・丁子・大茴香など渡来の様々な香料「香料箱」沈香・白檀・肉桂・丁子・大茴香など渡来の様々な香料

仏前に良い香りを漂わせることは非常に大切なことで、
香りは心を鎮め神仏との特別な交流の場をつくりだすものでした。
香料のもつ抗菌作用や昂進鎮静作用によって仏前は清らかになり
儀式は厳かな雰囲気へと変化していったのでしょう。

私たちは現在、亡くなられた人を慰問するとき
香典としてお金を包んで行きますが、
古代インドでは死者の弔いに使用する“香”そのものを参列者が持参していく
というのが本来の習でした。
仏陀が荼毘にふされる際にはじつに大量の白檀が用いられたと伝えられますが、
現在でも火葬のおりには香木が焚かれます。
豊かな者は薪として貧しいものは少量の白檀片が投じられ、
死者の魂は神々が喜ぶ香りと共に
ガンジス川の流れにのって来世へと旅立っていくのです。

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