雪月花
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その67「滋賀県・渡岸寺の十一面観音と招福楼」

2016年9月13日

 

ひとつ前のブログの続きとなります

琵琶湖畔の旅のお話しをさせていただきます。

 

石山寺の秘仏御開扉にともない

三十三年ぶりにお姿を現した如意輪観世音菩薩に

ぜひともお目にかかりたいと出かけた近江の旅。

 

夕方に東京を出発し翌日には帰宅予定の、なんとも忙しい旅路です。

 

当地で訪れたいところは数々ありましたが、

動線を考え湖北から湖南へと下る

三つの場所に目的をしぼり巡ることにしました。

 

 

昨日は19時に新幹線で米原に到着しホテルに直行。

翌朝は琵琶湖畔を少し散策し9時半に出発をしました。

 

20160911_082219 静かにそして豊かに水をたたえる琵琶湖畔

 

 

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最初に湖北長浜にある渡岸寺(どうがんじ)へと向かいましょう。

 

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琵琶湖周辺は平安時代より観音信仰の地として

時の貴族や権力者また女性たちがたくさん訪れました。

それぞれの寺には歴史をまとった

じつに完成度の高い観音様が祀られているのです。

 

 

 

 

渡岸寺観音堂の国宝・十一面観音菩薩立像

 

 

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湖北を代表するこの渡岸寺には、

日本で一番美しいといわれる国宝・十一面観音菩薩立像が安置されています。

 

聖武天皇の勅願により刻まれたという観音様は、

気品あふれる面差しと、

流れるように腰をわずかにひねったお姿をなさっており、

 

平安時代を代表する仏像として、

拝む者の煩悩・苦しみを取り除いてくれる優しさにあふれ

 

誰もがその崇高なお姿に魅了されることでしょう。

 

戦国時代、織田信長と浅井長政の戦火にあい、

迫り来る猛火から村人衆が土中に埋めてお守りした逸話をもつ仏像で、

埋められていた場所には碑がきざまれています。

 

 

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参道脇にある大きな塚をながめると

2メートル近くもある仏像を戦火から守るため

必死で土を掘り埋めた信仰熱き人々の姿が浮かび上がり

深い感慨に包まれます。

 

 

私がかつてこの寺を訪れたのは、紅葉で彩られる秋深き頃でした。

 

現在の立派な建物とは違い、

まだ簡素なお堂に祀られていた観音様のおそばには、

初老の村人がおり

聞けば持ち回りで観音様の説明に当たっているとの事。

 

彼は祖先が命がけで守った仏像をまぶしいように見つめ

 

「・・・本当に願いを叶えてくれるのですよ・・・」

 

と静かに話されました。

そのまなざしに私は胸をつかれ、

村に根ざし愛され続ける信仰の本来の姿を見たように感じ

 

その時の感動は時を経ても変わることなく心に刻まれ

再び観音様にお会いできる日を待ちわびていたのです。

 

 

 

 

無事に参拝を終え、

次に近江の街に近く八日市にある料亭「招福楼」へむかいましょう。

 

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当地を代表とする老舖である招福楼は、

東京の丸ビルなどにも店舗を構えていますが、

 

やはりこの時代をまとった風格ある佇まいと

繊細な地の料理の素晴らしさは

訪れてしかるべきといえるでしょう。

 

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お部屋から望む石庭です。

 

縁側から差し込む光の明暗に

谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の一節が浮かび上がります。

 

日本建築のかもしだす静かなる光の美が感じれらますね。

 

20160911_123019  20160911_120801

 

器の美しさに思わずパチリとお写真を。

 

乾山写し萩草花流水文の取り皿と

瓢型・切り子硝子の冷酒徳利

 

息子さん娘さんともにお店を継ぐべく修行中とのこと。

このような建築物を維持なさるのは大変なことでしょうが

ぜひ、後世までに残していただきたいものですね。

女将さんとしばしお話しをし、

またの来訪をお約束して店を後にします。

 

20160911_132113 門前にて記念のお写真

 

お腹もいっぱいになりました。

それではこれから大津の石山寺へとむかいましょう。

 

御寺での詳細はひとつ前のブログに書かせていただきましたので

どうぞご覧くださいね。

 

 

すべての行程を無事に終え、

あとは石山寺から京都へとむかい、新幹線にて帰郷です。

 

忙しい旅でしたが、大変思い出深いものになりました。

 

この夏は原稿書きに明け暮れ、

どこへも旅行できなかったので

ようやく心がスーと晴れ、身体も軽くリセットされたよう。

短くてもやはり旅は良いものですね。

 

日常から離れた土地の風に吹かれることの大切さを実感した次第です。

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

皆さまどうぞ機会がありましたら、近江の旅へお越しください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年09月13日 up date

その66「滋賀県・石山寺観月会と秘仏御開扉」

2016年9月12日

 

ようやく涼しい風も吹きはじめ

秋の訪れを感じるようになりました。

皆さま、お元気に夏を過ごされましたでしょうか。

 

今年の十五夜は9月15日とのこと。

満月の美しい月明りに包まれるのも、もうじきですね。

 

十年ほど前になるでしょうか。

私は滋賀県近江の旅へと出かけ、大変印象深いお月見の夜をすごしてきました。

今回は、そんなお話をさせていただきましょう。

 

20160823_174724 台風一過の空

 

 

~石山寺の観月会~

 

まだまだ初秋とは名ばかりの九月十二日、十六夜(いざよい)の良き日、

私たちは数日前に発生した台風の雲の流れを気にしつつ、

滋賀県大津の石山寺でおこなわれる観月会へとむかいました。

 

早朝に東京を出発し新幹線で米原へ到着、

近江を代表する料亭「招福楼」にて秋の会席料理をいただきます。

シットリとした老舗のたたずまいと素材を生かしたお料理そして器の美しさ、

京都に近いこの地は日本の東西の中間点として古来より権力者の集う場所であっただけに、

洗練されたもてなしを受けることができました。

 

食後、琵琶湖から流れ出す水郷のひとつ“豊年橋”から、

織田信長も楽しんだと伝えられる水郷巡りへと出かけましょう。

 

いまから四百年前、

豊臣秀次が宮中の舟遊びに似せてはじめたこの優雅な船下りは、

自生する葦の群生を保護するために今でも船頭さんによる手こぎ船にこだわっています。

キーコーキーコーという棹の音と共に、

飛来した野鳥や薄紫のホテイアオイの花が目を楽しませてくれることでしょう。

 

ベェネチアのゴンドラに乗ったときにも感じた

手漕ぎならではの水との一体感がなんとも心地よく

心と身体が和んでゆくのを感じます。

かれこれ一時間半あまりの水郷巡りを終えると

少しずつ空が黄昏てきたようです。

それでは、そろそろ石山寺のお月見へとむかいましょうか。

 

 

琵琶湖の湖南に位置する石山寺は、

747年に聖武天皇の勅願により創建された歴史ある寺院です。

 

京の都に近く川のほとりの風光明媚な地に建てられたこの寺には、

本尊である如意輪観世音菩薩の霊験を求めて

天皇はじめ多くの貴族らが訪れました。

また、紫式部を初めとする多くの女性達に愛されたことでも有名で、

石山寺の創建と観音様の霊験を絵と詞で記述した

「石山寺縁起絵巻/七巻」(重要文化財)には数々の逸話がしるされています。

 

石山寺縁起絵巻 第7巻第31段。母を助けるため身売りした娘が嵐に遭うも、一心に石山観音を念じると、白馬が現れ娘を水際まで引き上げる場面。背景には人買いたちの断末魔の様子が見える。その後、娘は結婚して母を養い、裕福で幸せな人生を送った。

「石山寺縁起絵巻」 第七巻第三十一段。

 

母を助けるため身売りした娘が嵐に遭い

船が転覆するも一心に石山寺観音を念じると白馬が現れ娘を助けたという

 

 

近年、中秋の名月にあわせた九月の数日間、

石山寺では観月会が催されています。

 

夕刻六時に開かれた門をはいると

境内全体は葦を原料として作られた和紙の風除けに包まれたロウソクが

千五百本も並べられ優しく足元を照らしていました。

今宵の月の出は七時半との事、

しばし本堂で催されている二胡の演奏に耳を傾けながら、

本尊である“如意輪観音”の霊験を求めた女性達をふりかえってみることにしましょう。

 

紫式部 『源氏物語』

「紫式部」部分 土佐光起画 石山寺蔵

 

十一世紀初頭、

村上天皇の皇女選子内親王に、

まだ読んだことにない物語をと所望された紫式部は、

構想の願いを込めて七日の間この石山寺に参籠されました。

折しも十五夜の月明かりが琵琶湖を美しく照らし出しています。

うっとりと月明りを浴びながら満月を眺めるうち、

脳裏にある文章が浮かび上がってくるのでした。

 

 

『・・・今宵は十五夜なりけりと思し出でて、殿上の御遊恋ひしく・・・』

~十五夜の美しい月を眺める光源氏が、京の都での月夜の管弦遊びを恋しく思う~

 

この一節は後に「源氏物語」の「須磨の巻」に生かされることになるのですが、 

不意のことに紙の用意がなかった紫式部は、

手近にあった大般若経の裏にその一節を書きとどめたと伝えられます。

こうして石山寺の月夜の美しさに発想を得て誕生した「源氏物語」は、

平安の宮中人を夢中にさせ、

現代にいたるまで多くの人々を魅了し続けているのです。

 

藤原道綱の母 『蜻蛉日記』

紫式部が石山寺に参籠する以前の970年7月、

「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱の母も京より石山寺に赴いています。

たいへん美しく才媛といわれた彼女ですが、

夫である藤原兼家の多くの女性関係に悩まされ続けていました。

愛の葛藤に疲れ果て観音様へ救いを求めて観音堂にこもります。

するとウトウトとした夢の中に寺の別当とおぼしき法師が現れ、

自分の右ひざにザブリと水を注ぎかけるのでした。

ハッと目覚めた彼女は、

この夢を“情念の炎を消しなさい”という観音のお告げと解釈します。

不思議と乱れた心は静まり、

十日の予定を三日に繰り上げ都へと帰り着くのでした。

 

菅原孝標の女(すがわらたかすえのむすめ) 『更級日記』

「更級日記」は、

幼いころから夢見る文学少女だった女性の

少女時代から老境に至るまでの四十年を回想して綴られた自叙伝です。

「源氏物語」に深く心酔していた彼女は、

1045年、憧れの石山寺へと詣でるのでした。

夕刻まどろんでいると夢の中に麝香を手渡す者があらわれ

早く御堂で焚くよう促します。

その後、何とも心地よく目覚めた彼女は

この夢を観音様の霊験ととらえ、

帰郷した折には祈願したことが続いて現実のこととなり非常に喜ぶのでした。

 

その他に「枕草子」を執筆した清少納言や

「和泉式部日記」の和泉式部など

おおくの女流文人が石山寺におもむき参籠を果たしたと伝えられます。

 

 

 

あ、あたりの暗さが増すと共に

ロウソクの炎のゆらめきが一層美しく感じられてきました。

もともと岩山だったこの寺は、

他にはない独特の景観をもっています。

琵琶湖から流れ下流は宇治へと続く寺院の瀬田川沿いには、

岩に木の柱を打ちつけて建てられた月見台「月見亭」がありますので、

そちらへと足を運んで輝く月の光を浴びることにしましょう。

 

毎年必ず巡りくる十五夜ですが、

今宵は紫式部はじめとする女性文人たちへと思いを馳せて、

いつもとは違う趣のお月見となりまし

 

 

 

2016年

本年は滋賀県琵琶湖の湖南に位置する

石山寺ご本尊「如意輪観世音菩薩」御開扉の年を迎えました。

 

三十三年に一度しかお会いできない秘仏ですので

どうぞ滋賀方面へとお出かけの際にはお立ち寄りください。

京都からも近くJRで15分ほどで石山駅につき

そこからタクシーまたは私鉄でほどなく寺院へと赴けることでしょう。

 

私は先週末急遽、石山寺参拝を済ませてきましたので

その様子もご報告させていただきます。

 

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石山寺の門前です。

五色の旗が飾られなんとなくワクワクと気持ちが浮き立ちますね。

さあ10年ぶりの石山寺詣。

早速、観音様にお会いしに本堂へと向かいましょう。

 

 石山寺本堂(国宝)

 

 

ご本尊である如意輪観世音菩薩は、

平安時代後期の作で約5メートルもある大きな仏様です。

薄暗い本堂に鎮座されたそのお姿は、

ふっくらとした優しい面差しながらも威厳に満ちておりました。

 

観音様の御手には五色の紐が結ばれており、

その端は参拝者の近くへとつながり

誰もが触れることができます。

 

聖武天皇はじめ多くの貴族たちが

観音様の霊験を求めまた、極楽浄土を願って

こうして同じように観音様の御紐を握られたことでしょう。

 

いつも眺めるだけしかできない観音様の御手にフッと触れたように感じられ

何ともありがたく手を合わせます。

 

 

 

それでは次に、

小高い岩山である寺院の散策へとむかいましょうか。

 

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緑多い寺院には萩の花が咲き誇り、

秋の訪れを感じさせます。

 

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日本最古といわれる美しい様式の木造多宝塔(国宝)。

 

20160911_145341  岩の上に杭を打ち建てられた月見台

 

以前訪れた時は観月会の夜でしたので

闇夜のなか蝋燭の揺れるあかりを頼りに月見台へと足を運びました。

月見台の下方に流れる瀬田川の上に大きな満月が輝いて

その月光が水面にまでゆらゆらと写しだされ

それは幻想的に感じたものです。

 

時を経てふたたび訪れることのできた幸せに感謝するとともに

坂道がこんなに辛かったかしらとも感じ、

年を重ねたことの現実も実感する旅となりました。

 

古代から祖霊信仰の霊場として栄え、

聖徳太子や最澄・空海により開山された歴史ある古寺が存在する琵琶湖畔。

 

現在寺院の数は京都を上回って日本一を誇り、

また観音菩薩像を本尊とする寺が群を抜いていることも近江霊場の特徴でしょう。

 

観音信仰は平安時代から女流文学者の信仰を集め

紫式部や清少納言をはじめ多くの女性たちの心をひきつけてきました。

 

私も文章を書く者として霊験あらたかな石山寺・如意輪観世音菩薩様に

お会いできたことを励みに、

これからも勉強を続けて行きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年09月12日 up date
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