雪月花
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その13 「新年を寿(ことほ)ぐ・瑞穂の国」

2013年12月17日

 

                             『京洛四季』「年暮る」東山魁夷 1968年山種美術館蔵

「 去りゆく年への心残り 来たる年へのささやかな期待 」

親交の深かった川端康成から

「いま京都を描いておいていただかなくては」と懇願された東山魁夷は、

古都の四季の景色を残すべく京都を巡る旅へとでかけます。

シンシンと雪の降り積もる夜半の屋根瓦を、

東山ブルーと評される独特の色彩で表現した最後の作品「年暮る」は、

すべての音を吸い込む雪中の静寂の中、

窓辺にともるほのかな灯りが年の瀬の人々の静かな営みを感じさせ

なんとも感慨深い作品となりました。

誰もが一年をふりかえる年の暮れ、

街を歩けば綺麗に清められた家々に常緑の松やしめ縄が飾られ、

新春を迎える日本の美しい習わしに心を打たれます。

今回は、新年を寿ぐ日本人の精神を、

」というかかわりの深い植物をとおして少し考えてみることにしましょう。

 

しめ縄飾りの起源ファイル:US long grain rice.jpg

 

 

『天岩戸の神話』

わが国最古の文献で、

神々による国創りの物語が綴られている『古事記』には、

天照大神(アマテラスオオミカミ)という太陽神が登場します。

ある日、天照大神がおさめている高天原へ

弟である須佐之男命(スサノウノミコト)が訪れます。

しかし、身体は立派な大人ながらも精神的に幼く乱暴者の彼は、

酒に酔って乱暴狼藉を重ねてしまうのでした。

あまりの振る舞いに怒った天照大神は、

天岩戸”という岩屋にお隠れになってしまいます。

さあ大変、大神の光を失った世界はまたたくまに暗闇となり、

いたるところに悪神がはびこりはじめます。

困った八百万(ヤオヨロズ)の神々は相談をし、

岩戸の前でにぎやかに祭りをはじめることにするのでした。

 

舞の上手な神様の肌もあらわな踊りにワッと笑いの渦が巻き起こり、

その賑やかさに興味をそそられた大神が

岩戸を少し開いて覗こうとしたそのすきを逃さず、

力持ちの神様が岩戸をグッと引き開けて大神を表へと連れ出し、

まわりに  “しりくめ縄”  を引きめぐらし戻れないようにします。

するとどうでしょう

真っ暗だった世界がみるみる明るさを取りもどし、

ふたたびこの世に平和が戻ってくるのでした。

 

ファイル:Amaterasu cave crop.jpg

 

この神話に登場する縄が “しめ縄” の起源だといわれています。

 

縄をはりめぐらすという行為には、

結界を張るという意味があります。

新年の玄関にしめ縄を飾ることで、

家中と外との境界となり災いをはね退け清浄な場を保つことができるのですね。

縄は藁で編まれますが、

農耕民族である日本の稲作は縄文時代からはじまりました。

当初は石包丁で穂のみを刈り取る「穂刈り」でしたが、

弥生時代後半になると朝鮮から鉄鎌がつたわり根元から収穫する「根刈り」となり、

残った稲藁を使って

米俵・草履・むしろや籠など様々なものが作られるようになっていくのです。

お米と同様に精霊が宿っているとされる稲藁で編んだ縄は、

神社や御神木などに飾られるとともに

日本の正月に欠かせない神聖なものとしての役割をになっていくことになります。

お正月のしめ縄に使われる藁材は、出穂前の稲を刈りとって作られるため、

青さの残るその新鮮な香りが大変みずみずしく

新年にふさわしいといえるでしょう。

 

 

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今年収穫された稲穂と榊葉をもちいて「五穀豊穣の稲穂飾り」を製作しました。

重たげに穂を垂れる稲を一本一本清めていくと

どこか懐かしいような稲藁の香りに包まれ

幼い日に父の田舎で嗅いだお米の収穫の風景が浮かんできます。

パンやスパゲッティなどが食卓に並ぶようになり

子供の頃のように毎日食することのなくなったお米ですが、

旅先の車中からながめる田んぼの風景は、いつも私の心を和ませてくれます。

爽やかな五月の風に揺れる水面の早苗

天に向かってに伸びゆく初夏の若草

重たげに穂を垂れりにさえずる雀たち

そして、収穫の後の静まり返った田の風景

季節とともに変わりゆくその景色に触れるたび、

自然の摂理がかくも正しく循環しているように感じ心は安堵するのでしょう。

日本の原風景といえる稲田は、これからどうなっていくのでしょうか。

できることならば、

未来の子供たちともこの感慨を共有したいものと願います・・・。

 

 

2013年12月17日 up date

その12 「ぶどうの丘」

2013年11月19日・・・勝沼のぶどうの丘に行ってきました。

 

気候地質ともにぶどう栽培に適した山梨県勝沼は、

日本のワイン王国として様々なワイナリーが歴史を刻んでおり

それぞれに自社農園で栽培したぶどうを用いた美味しいワインを生産しています。

お写真とともに旅の様子をご覧いただきましょう。

 

新宿から”特急かいじ”に乗り1時間半もすると「勝沼ぶどうの郷」駅に到着です。

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高台にある駅舎から向こうを見渡すと、

青空の下、美しい勝沼盆地が目に飛び込んできます。

流れる風も爽やかにスゥと深呼吸したくなるほどのスガスガしさ

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それでは景色を楽しみながら

ランチ予定の「原茂ワイン」さんへと向かいましょう。

グルッと盆地をなぞるように道沿いをすすむと

赤く紅葉したや見事に並んだ干し柿の風景に心がなごみます。

お花の花材用に銀色に輝くヘクソカズラの実を採取

思ったより遠くてハアハアしましたが、

原茂さんに到着です。

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レストランもあるこのワイナリーは、

作家の林真理子さんお気に入りと伺い楽しみにしていました。

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時代を感じさせる木造の建物には暖炉があり、2階へと上がるとレストランになっています。

ベーグルにロースト野菜やソーセージなど

とってもヘルシーなワンプレートに

11月2日に解禁となったばかりの新酒ワインで乾杯です。

”原茂デラウェア2013”

じつはワインのことサッパリわからない私ですが、

はじめて美味しいと感じてしまったのです。

なんといって良いのか、こちらでぶどうの樹にじかに触れたせいでしょうか

頭の中に房々と実ったデラウェアがギューとつぶされて

樽に詰められ熟成していく様子が目に浮かんできたのです。

甘酸っぱくて生のぶどうの感じが残っていて若々しくて

感激してしまいました。

もちろんお土産に買って帰りましたが、あとでお取り寄せもした次第です

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こんなに可愛いアイドル犬

お庭に気持ちよさそうに

寝ていましたよ

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そのあと、「勝沼ぶどうの丘」へ

地下にあるワインカーヴには、山梨のワイナリーすべてのワインを試飲できます。

タートヴァンと呼ばれるカップを首に下げて、

あちらこちらと少しづつ口に含んでみると

確かにそれぞれに香りや渋み色合いなど違うものですね。

ふと昔の生徒さんのご主人に、

メルシャンワインのテイスティングのお仕事をなさっている方がいたことを思い出しました。

彼女にお宅に伺ったとき、黒のアタッシュケースのなかにビーカーに詰められた様々な香りのビンが並べられているのを見て

 なんて繊細なお仕事なのでしょう、と感じたものです。

今から思えば、もっとお話をうかがっておくのでした。

でも、今回の旅で少しワインに目覚めましたので

遅まきながらもっともっと美味しいワインを楽しみたいと思います

2013年12月06日 up date

その11 「一休さんの墨跡」

2013年10月30日

昨日の雨もあがり、秋らしい爽やかな晴天となりました。

今日は、白金にある「畠山記念館」でのお茶会です。

 

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坂をあがり瀟洒な記念館の門をくぐると

まるで結界を超えたかのように

しっとりとした空気の流れる別世界がひろがります。

当地の美術館は、株式会社”荏原製作所”の創業者であった

畠山一清氏が収集した茶道具をおもに展示しており、

その苑内には趣ある茶室が点在しています。

尊敬する花人・川瀬敏郎先生の花会も、こちらの茶室で定期的に開催されました。

今から思うと、それはどんなに貴重な時間だったことでしょう。

茶室という日本独特の精神が宿った空間で、

先生の花にはじめて触れ,

私は大きな衝撃をうけました。

茶道の世界では、床の間に飾られた花に対して

一礼のうえ拝見するのが習わしとなっています.

世界中に花を愛する人々はたくさんいますが

花に対して頭を下げる民族は日本をおいてないでしょう。

日本人は古代より、田に実る稲を神聖視し、そびえる樹木そして野辺に咲く花々にも

神の姿を見いだしてきたのです。

山河多く、海に囲まれ、豊かな四季に彩られる日本の大地ですが、

その反面、地震や台風の被害にも悩まされ

失いそして再生を繰り返す営みに

自然と対峙する姿勢がつちかわれてきたのも納得できることでしょう。

日本人にとつて生きることは自然と生を共にすることであり

自然は多大なる恩恵とともに深い悲しみをも授ける

人知の及ばない領域として畏怖されてきたのです。

川瀬先生の花に接すると、

意識とはまた別の領域に刻み込まれている

日本人のそうした精神が呼び起こされるのかもしれません・・・。

さまざまな茶人が茶会を開催するにおいて、

もっとも苦心なさるのが茶花だといわれます。

なぜならば、趣向を凝らした道具合わせや懐石などの準備は事前にできますが、

床に飾る花だけは自然の生き物ゆえ間際まで整えることができません。

それゆえ、その一花に茶人としての力量が全て表されてしまうともいえるでしょう。

川瀬先生のことをご存知ない人も多いかもしれませんね。

今日は詳しくはお話しませんが、

すべての花を活ける方々と一線をかす存在であられることを覚えておいてください。

また、折につけ先生のお話をさせていただきたいと思います。

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今回の茶会では、濃茶席の寄付きとしていた「明月軒」の床の間に

一休宗純和尚の墨跡が飾られていました。

「 応無所住 而生其心 」

「 おうむしょじょう  にしょうごしん 」

 

この言葉は、なにを表しているのでしょう?

書のことは詳しく知りませんので少し調べてみましょう。

これは禅宗のお経「金剛経」にある一節で解釈には諸説あるようですが、

 

心をとらわれないこと・・・

起こったできごとを流れるままにうけとめ、執着しないこと

目の前のことをそのままに素直に受けとり、心に停滞させないようにするが良い

 

という意味になるようです。

 

何かにつけ肩に力がはいってしまう私には、ハッとさせられる一句でした。

障子の柔らかい光につつまれた室内にはいり

薄暗い床の間へとすすんで一礼し、そのお軸を見上げると

のびのびと勢いのある

そしてどこか人をなごませるかのような優しさを含んだ

一休和尚様の書が現れました。

かすれゆく墨色が時代を感じさせ、判らないながらもしばし見詰めていると

確かに生きておられたそのお方がフワッと立っておられるような気がして

なんともいえない嬉しさがこみ上げてくるのでした。

 

写真でなく映像でなく、

本物と直に触れることの大切さは、こうゆうことなのですね。

 

おりしも当日は私の誕生日にあたりました。

このお軸にであえたことを意味あることととらえましょう。

生きていく上で起こる様々なできごとに執着せず

自分に授けられた人生

謙虚にそして、たくましく

成長できる頂きを目指していきたいと

あらためて思った一日となりました・・・。

 

 

 

 

 

2013年11月01日 up date

その10 「薔薇刺繍の匂い袋」

2013年10月

 

11月の香りレッスンで皆さんと製作する匂い袋の準備中です。

 

きれいに刺繍された薔薇のモチーフをみつけましたので

お見せしましょうね。

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なんて美しいのでしょう♥♥

お教室の準備にこのところいろいろな場所に出向きましたが、

このバラ刺繍に出会ったとき

イメージがまたたく間に浮かびがりました。

布地には温かみのあるベルベット

豪華なタッセル飾り

そしてバラの美しさをキラキラと引き立てるガラスやビーズ

英国のヴイクトリアン時代を懐かしむように仕上げましょう。

美しいものがたくさん誕生し

装いも夢のように華やかだった時代です。

こうして準備を進めている時間がなんとも好きで、

みなさんの喜んでくださるお顔を想像しながら手を動かしていると

アッというまに時間が過ぎ去ってしまいます。

今回は、女性に生まれた喜びを中に詰める濃厚な薔薇の香りとともにお届けしましょう。

どうぞ、お楽しみに・・・・・♥

 

 

2013年10月20日 up date

その9 「花魁草(オイランソウ)」

2013年10月10日

先日、夕食後のお散歩のときに偶然みつけた小さな公園。

 

 滝石橋など、段差のある空間を上手に演出していてなんて素敵なのでしょう。

思いがけない発見にワクワクと心がはずむような気持ちになりました。

 

休日の今日、あらためて出かけてみることにしましょう。

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水辺の景色がとても涼しげに目に映ります。

スッと背を伸ばしたガマの穂はじょじょに葉先を色付きはじめ

その横には花の香りがおしろいに似ていると言われる花魁草オイランソウが

久しぶりに目にしたこの花はやはりその名にふさわしく妖艶な、

またどこか寂しげな雰囲気をかもしだしているのでした。

小さな深呼吸をして日本の野草を眺めていると

なぜか心が落ち着いてくる感じがします。

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家の近くに、こんな素敵な場所があったのですね。

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 このあたりは高層 マンションが立ち並ぶ

都会の真ん中のような場所なのですが

それゆえポッと現れたこの空間がありがたく感じられるのでしょう。

 

それではもう少し小さな秋を探しに、

ビルの谷間を花巡りしてみることにしましょう

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紫の気品ある実をつける紫式部

幼い日に摘み取り遊んだイヌタデ

秋陽に輝く金盞花

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勢いよく枝を伸ばす秋の七草・紅の萩

可憐ながらもたくましく咲くサルビア

そして秋を待つように銀色に風にゆれる ススキの穂

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どの花も、自分に与えられた生をまっとうするかのよう

何も語らず静かに咲いています。

 

今日は、こんなにたくさんの輝きに出会うことができました

 

 

 

2013年10月13日 up date
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