雪月花
ブログメニュー

その26 「永富家のあやめ会」

2014年 6月14日

 

20140614_155246

見事に咲き競う色とりどりのあやめ

ここは新幹線の姫路駅から車で30分ほどの位置にある

庄屋建築「永富家」の庭園です。

千坪近い敷地には、

入母屋造りの主屋に

白塀の美しい瓦葺きの長屋門、

そして籾納屋や味噌蔵などのさまざまな蔵があり

国の重要文化財にも指定されている

それは素晴らしい江戸後期建築です。

20140614_121705

今日は、いたるところに幔幕が張られ

とても華やいだ雰囲気に包まれていますね。

当地で開催される”あやめ会”

美術評論家の林屋晴三さん

楽家15代・楽吉左衛門さん

金閣寺でも茶会を依頼されたスイスの

数寄者ニーゼル・フィリップさんなど

そうそうたる人物が席主をつとめられました。

関西の主だった名門婦人がほとんど集うという

この年一回の茶会に、

今年は花人川瀬敏郎先生席主にと推挙され

わたしもそのご縁で伺うことができたのです。

下見に訪れたとき、

三つ紋付の正装でお迎えくださった永富美香子令夫人のお姿と、

隅々にまで心の行き届いた室礼に、先生は覚悟を決めたと言われます。

昔の空気感を見事なまでに維持しているこの邸宅で

先生は「室町の花 」を再現されました。

広い土間や磨きこまれた廊下には

時代籠にさりげない蛍袋などの野の花を、

濃茶席には明時代の曼陀羅華型(まんだらげ/朝鮮朝顔のこと)の古銅の器に

清らかに咲く昼顔を、

昼顔 (2)小書院の床には太閤秀吉が自ら断切り

”早馬”と命名した竹花入れに

まだ小さな蕾を抱いた馬の鈴草(ウマノスズクサ)を,

Aristolochia debilis 3.JPG

また、上座敷・中座敷には

室町時代の公家や僧侶など花の名手が優劣を競ったという「花会」を再現し、

いくつもの花が並べるように飾られていました。

室町の花とはいったいどのようなものか、ここで少しご紹介しましょう。

1380年6月9日 

この日、二条良基邸にて記録にのこる日本始めての

「花会」が催されました。

この会は、花の名手とされる公卿と数名の僧侶を加えた24名が、

12人ずつに分かれて花を生け、

その優劣を競うというものでした。

このように花を立てるという新しい芸術が注目されていくなか、

仏事に花を 楽しむ「七夕法楽(たなばたほうらく)の花会」が、

公家・ 将軍家において盛んに開催されるようになっていきます。

そして次第に、一年をとおして時節の花を殿中に飾ることが

恒例 となっていくのでした

文阿弥花伝書(石田家本)

 将軍家の所蔵する唐物(からもの/渡来品の意)を

 管理し花を生けるのは、

 京都の六角堂頂法寺の僧 である池坊専慶や

 文阿弥(もんあみ)などの花の名手たちに任されました。        

 やがて、進化していく桃山文化の華麗な建築に合わせるかのように、

 「立花」の様式はより堂々とした装飾性を強めていきます。

       「花を生ける」という文化は、

  中国における文人のたしなみであった挿花と

  宗教的意味合いのある供え花を基として、

  日本独特の精神的な美を表す場を得たことで発展

  権力者の庇護のもと

この室町の時代に根を下ろしたといえるでしょう。

花の世界とは、もともと茶の湯と同様に男の領域だったのですね。

楚々とした野の花を生ける時にはわからないでしょうが、

立花を学ぶと

花器にしつらえる込藁(こみわら)をギュッと束ね

ノコで樹を切り出して枝をはらい、刺し口をナタとがらせるなど

力がなければできない作業がいくつもあり

女性の入り込めない世界であることに気付かされます。

今回の茶会は、中世に誕生した茶の湯という日本の芸能を

永富家という時代をタイムスリップしたかのような場をもって荘厳した

二度とない素晴らしい会となりました。

そして何よりも圧巻だったのは、

一段高くしつらえられた上段の間の中央に

どうどうと生けられた”立花”でした。

立花とは人のためではなく神仏へと意識を投じて生けられた花

といったら良いでしょうか。

遠近古今など森羅万象の成り立ちを閉じ込め

まるで宇宙がそこに成り立っているかのような花ゆえ

誰もが気軽に手を出してはいけない領域といえるでしょう。

もっと上手に説明できれば良いのですが、

花を生けるというさりげない行為に

壮大な世界感をもって挑んだ日本の先人たちがいた

という事実を是非知っていただきたいと思います。

鮮やかな朱塗りの平卓

桃山時代の月型の遊鐶(ゆうかん)のついた

古銅薄端立花瓶(うすばたりっかへい)に生けられた立花は、

人が立ち入ることを拒むかのように

じっと私たちを見つめ返すのでした。

20140614_151914

 

2014年6月16日 up date
雪月花一覧へ戻る
↑このページの一番上へ