雪月花
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その7 「菊のお酒」

2013年9月8日

 

菊の節句

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もうすぐ、九月九日「重陽の節句」が訪れます。

暑さが少しずつ和らぎはじめると、さまざまな秋便りが届き始めます。

なかでも松茸や栗・葡萄や新米そしてサンマなどの秋魚など美味しい食材も楽しみですね。

そんな秋の食卓に、フワッと薫る菊のお酒をお届けしましょう。

 

20130803_112845作り方はとても簡単です。

新鮮な菊花の花びらをむしって器に詰め、日本酒をそそぎ

半日ほど置いて菊の芳香が程好くうつったら完成です。

冷たくしてお召し上がりください。

とってもとっても美味しいですよ。

一片の花びらをソッと浮かべてどうぞ・・・。

 

 

 

 

「菊」というと仏前の花というイメージが強いかもしれませんが、

秋の日の野菊の香る様子はじつに穏やかで、心地よく流れる風に似合います。

その香りは涼やかであり清冽であり

日本人の精神にも通じる独特の香気を放っているといえるでしょう。

 

菊には、不思議な霊力が宿っているといわれます。

ここでひとつ、ある物語をご紹介しましょう。

 

 

江戸時代後期、大阪の遊郭・曽根崎新地に私生児として生まれた”上田秋成”は、

体の弱い子共で次第に神秘や幻想の世界へと傾倒していきました。

やがて、中国や日本の古典物語にであったことで怪奇短編小説を

「雨月物語」にまとめます。

そのなかの1編、「菊花の約(ちぎり)」には、

自らを刃に伏し、死を呈してまで男同士の約束を果たした物語が綴られています。

孤独を抱えた二人の思いは、菊の花の霊力をもって

究極のかたちへと流れていったのかもしれません・・・。

 

sekka_30[1]『酒井抱一・槙に秋草図屏風』

江戸後期・細身美術館蔵

 

 

物語は、旅の途上生死をさまよっていた宗右衛門が、

貧しく実直な学者・丈部左門(はせべさもん)によって助けられることから始まります。

やがて快復していく中で深いつながりを感じた二人は

”義兄弟の約(ちぎり)”を結ぶまでに親交を深めるのでした。

桜の花びらも散り初夏をむかえた頃、

宗右衛門は「菊の節句」に戻ることを約束して故郷へと戻ります。

月日は流れ、やがて約束の九月九日「重陽の節句」。

菊花をかざり酒席の用意を整えた左門ですが、

なかなか彼は姿をあらわしません。

待ちくたびれぼんやりと月夜をながめていると、

ふと黒い人影が佇んでいるのに気づきます。

目を凝らしてみれば、あの宗右衛門がたっているではありませんか。

躍り上がらんばかりに喜んだ左門は、彼を家中へと招き入れるのでした。

じつは故郷へと帰った彼はお城に軟禁されてしまい、

約束を果たせない状況にあったのです。

そこで考えあぐねた宗右衛門は、

人は一日に千里を行くことはできないが霊魂は一瞬にして千里を行くことができる

という言い伝えから、

なんと自らを刃に伏し死を呈して左門のもとへとたどり着いたのです。

こうして宗右衛門は命をかけて義兄弟の”菊花の約”を果たしたのでした・・・。

 

「雨月物語」に描かれた仁義を尽くす男同士の交流は、

清涼なる菊の香りとともに繰り広げられました。

孤独を抱えた二人の思いは、

菊の花の霊力をもって究極のかたちへと流れていったのかもしれません。

菊の花にやどる崇高な精神は、武士の魂と生き様に通じるものがあったのでしょうか。

この物語は、究極のホモセクシャルともいえる男ならではの”美学の象徴”として

今もなを語り継がれているのです。

 

 

 

 

 

 

 

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