2014年 11月 3日
美しき文様
それでは次に、
果たして色彩や文様はどの段階で加えられるのでしょうか。
その方法は大きく別けて3種類に分類されています。
一、「先染め」・・・あらかじめ染めた色糸をもちいて織る方法
二、「後染め」・・・織り上げた布に色や模様をつける方法
三、「加飾方法」・・・美しさを更に際立たせるために施すこと
三番目の「加飾方法」には、
刺繍・アップリケ・描絵(絵を描く)・摺箔(金箔を貼る)
などの方法があります。
国宝「天寿国曼荼羅繍帳」奈良県・中宮寺
(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)
奈良の中宮寺には、
飛鳥時代(622年)に制作された”繍仏(しゅうぶつ)”
が保存されています。
繍仏とは、
刺繍で仏像や仏教的主題を表し荘厳するもので、
その起源はインドにあり日本に伝わりました。
日本最古といわれる「天寿国曼荼羅繍帳」は、
聖徳太子の妃が太子の死を悼み、
せめて太子のおられる天寿国(西方にあるという極楽浄土の国)
のありさまを見たいという願いから、
宮中の采女らの手によって刺繍されたものなのです。
制作当時は、縦2メートル横4メートルの帳(とばり)を
二枚横につなげ寺の柱に幕のように張ったと伝えられますが、
現在残るのはその断片のみでつなぎ合わせ額装されています。
本歌は当時を知る貴重な遺物
として国宝に指定され奈良国立博物館に寄託されていますが、
レプリカが中宮寺に飾られていますので
ぜひご覧下さい。
レプリカとはいえ一針一針縫い目を拾って描かれたその精緻な刺繍を見ると、
太子を亡くされた妃の悲しい思いが伝わり
心が揺さぶられることでしょう。
私は今まで世界の人々の祈りの場である
神社・仏教寺院・聖教会・イスラムモスクなどを訪れてきました。
建物の中に足を踏み入れると
不思議と心がたかまりるのを感じます。
そしてそこで祈る人々を眺めることで
一瞬にして彼ら異国の人々の生きてきた背景に触れる事になるのです。
メキシコの教会では、このようなことがありました。
壁面に飾られたマリア像に手を合わせ
ボロボロと涙を流しながら大きな声で訴え、叫ぶ男性がいるのです。
あまりの光景に
私はつい立ち止まり凝視してしまいましたが
不思議なことに周りにいる人びとは誰も彼に注目せず
彼もまた、祈りが終わると何事もなかったかのように
立ち去っていったのです。
国が違えば宗教が違い、生きる環境が違い、そして考え方も違います。
でも、祈るという行為に生まれる美しさ尊さは変わらないのです。
この世で一番清らかなのは人々の祈る姿
ではないかなといつも感じています。
「天寿国曼荼羅繍帳」は、后の祈りとともに制作されたもの
ゆえにその思いが伝わり時を経てもなを
言い知れぬ感慨をひとびとへ与えるのでしょう。
最後に、
このようにシルクロードを経てもたらされた
色鮮やかで美しい品々は、
生涯訪れることのない遥か遠い異国への憧れをふくらませるものでした。
飛鳥奈良時代の貴族は、
民族も宗教も全く違う人々の手で生み出された
これら大陸の雄大な染織文化を積極的にとりいれました。
そしてそれを引き継ぐ平安貴族たちによって、
日本人の好みにあった優しい色合いの
上品で優雅な和風文様が生み出されていったのです。
日本を代表する染織史家であり
正倉院裂の復元などを精力的におこなっている
吉岡幸雄さんの言葉から、
千二百年前の染織物がどれほどに素晴らしいものかをお伝えしておきましょう。
「・・・正倉院の染織を頂点に、技術は手抜きの歴史なのです・・・」
人類は進み成長を続けていると思ってはいけません。
古代の人々が道具も機械も不十分ななか作り上げたものを
私たちは再現することができないのです。
文明の発達とともになくしてしまった
視覚・聴覚・触覚・そして臭覚などの鋭く純粋な機能は
どれほどまでに、素晴らしいものだったのでしょうか・・・。