雪月花
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その35 「美しき文様1 ”日本最古の絹”」

2014年 11月 1日

 

今年も奈良で「正倉院展」が、開催される運びとなりました。

繊細で美しい宝物の数々は1200年のときを経てもなを、

揺るがない力を放散し私たちを魅了するのです。

今回は、二点の正倉院裂を見ながら

日本の染色文化を少し覗いてみることにしましょう。

 

 

美しき文様

 

今から千二百年前に日本へともたらされた様々な布地には、

見たこともない鳥や獣

そして抽象化された華麗な植物などが描かれており、

その躍動感あふれる美しさに

天平の貴族たちの心は激しく揺さぶられるのでした。

 

飛鳥奈良時代以前の日本には、

無地や縞また幾何学的文様を施した

簡素な印象の布しかなかったと考えられています。

高度な技術と多くの手間を要する染織品は、

工業化によって手軽に鮮やかな布地を手にできる

現代人には考えられないほどに

大変貴重なものだったのです。

 

グラフィックス1

 

「紺地花樹双鳥文夾纈施几褥」正倉院裂

(こんじかじゅそうちょうもん きょうけちあしぎぬのきじゅく)

 

聖なる樹の下に

動物や鳥などが描かれた文様を” 樹下双獣文 ”といい、

そのデザインはササン朝ペルシャ(現イラン)から

シルクロードを経て日本へと伝えられました。

イランでは、歴史を通じて争いが絶えず

また、砂漠という厳しい気候風土のため劣化がひどく

当時の遺物は皆無といって良いでしょう。

故に校倉造りの建物に勅封という制度の元

保存されてきた正倉院の御物の貴重性が際だつと言えるでしょう。

 

褥(じゅく)”とは敷物のことで、

この布は供物台など卓上に敷かれたものと思われます。

蓮のような花座の上に向き合う相対の水鳥

中央には満開に咲き誇る花を抱いた樹が描かれ、

その様子は天空にある楽園をあらわしているといわれます。

 

色彩も見事に 赤・黄・緑・紺・白 と染め分けられたこの几褥は、

夾纈(きょうけち)”という

布を二つまたは四つ折りにし

板に挟んで一色ずつ染めていく大変難しい技法で染められていますが、

この染色法は一説に、

玄宗皇帝に使えていた女官の妹の発明と伝えられます。

 

 

グラフィックス2

 

紅臈纈施等雑貼」正倉院裂

(べにろうけち あしぎぬとうざっちょう)

 

円状にデザインされた葡萄唐草

中央には翼を大きく広げ片足を上げて

今にも飛び上がらんとする鳳凰、

そして葡萄の房飾りのついた四角い花文

これらが交互に配され美しいが印象的なこの裂は、

衣服に用いられていたものでしょう。

 

月日の経過とともに

縫い目からホツレ裂かれそしてバラバラとなったこの布は

現在は断裂として

他の裂地とともに雑帳に貼られ保存されています。

 

格調高い鳳凰文様

溶かした臈を塗った版型を

布に捺し防染してから染色する

臈纈(ろうけち)”という奈良時代盛んに行われた技法で染められています。

 

 

日本の染織物

 

日本の染織物文化はいつごろ始まったのでしょうか?

古代日本では布作りに先立ち、

植物の茎や樹皮をからげて細く長い丈夫な縄を作ったり

交互に編んだ籠などが作られました。

 

5500年前縄文遺跡(青森・三内丸山遺跡)

から見つかった小さな編籠は、

中から半分に割れたクルミの殻が発見されたことにより

縄文ポシェット”として注目をあびます。

たぶん籠の左右にヒモをつけ肩や首から吊り下げ使用したのでしょう。

素材は当初、畳の材料となるイグサ製と思われていましたが、

研究の結果ヒノキの樹皮をヒモ状にして編んだものと判明しました。

 

10センチ高さ16センチという小振りな大きさから、

縄文時代の幼い少女が身に付け、

籠いっぱいに栗やクルミ・栃の実などを拾い集めて

家族の元へと届けたのかもしれませんね。

湿地帯のゴミ捨て場らしき場所から発見されたこの籠は、

空気にいっさい触れずに埋もれ続けた

という奇跡によって、

5千年後の私たちの眼の前に姿を現すことになったのです。

 

グラフィックス3

 

縄文ポシェット」三内丸山遺跡

 

 

また、現在日本最古といわれている織物は、

2000年前の弥生時代前期・有田遺跡(福岡)から見つかりました。

 

染織物の保存はきわめて難しく

歴史をたどることは不可能と言われていますので、

弥生以前にも織物は存在していたことでしょう。

 

この発見された織物は、

たいへん小さな断片で、

柄の長いカマのような形をした”銅戈(どうか)”という

相手を引き倒す武器の刃の部分に付着している状態で発掘されました。

布は絹製で、

経糸と緯糸を交互に織りあげる「平織り

という基本的な技法で織られたものでした。

 

織物とは、

まず植物の茎や幹の繊維・蚕のマユなどから

糸をとりだす作業から始まります。

細い糸は、より合わされることで長く丈夫な糸となり、

これを機にかけ経糸・緯糸で織り上げることで

一枚の布となり、

さらに裁断・縫い合わすことで用途にそった様々な姿へと変化していくのです。

 

身体を保護する衣服や足を守る靴

寒さをしのぐための掛け物

さらに儀式を飾る敷物や幡(ばん)などの装飾品やりの衣装、

また貴重な玉や鏡など大切な品を納める袋、

など丹精込めて織られた布地を用いて

様々なものが作られていったのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

2014年11月18日 up date
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