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その17 「鼻煙壺(びえんこ)の塗香入れ」

2014年2月10日

 

鼻煙壺というのをご存知でしょうか。

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鼻煙香の歴史と鼻煙壺( Snuff  Bottle )

 

15世紀末、コロンブスのアメリカ大陸発見にともない

先住民が嗜んでいた煙草の習慣はヨーロッパへと伝わり、

宮廷貴族のあいだで大きな話題となります。

当時タバコには薬効があり気付け薬としてまた

頭痛や喘息にも効くと信じられていました。

さらに同時期、ヨーロッパでペストやコレラなどの伝染病が蔓延したことにより、

疫病予防のひとつの手段としても受け入れられていったのです。

未知の新しい感覚であった煙草は人々の心をつかみ、

1641年にはスペインに煙草製造工場も建設されるようになります。

 

英国王のためのスナッフボックス

 

中国へと伝わったのは17世紀中頃で

当初はイエズス会の宣教師によって

清朝皇帝など権力者たちへ贈呈されました。

鼻煙香”とは、

粉末状にしたタバコの葉に龍脳や麝香などの香料を調合したもので

極少量を小皿や手に受け鼻から吸い込んだり鼻孔にすりつけたりして

その芳香刺激を楽しむものです。

ヨーロッパでは、粉を入れる専用の嗅ぎ煙草入れとして

金銀や宝石などをちりばめた箱型のスナッフボックスが作られました。

 

しかし、湿気の強い中国では密閉することが必要となり、

薬瓶をヒントに小さな口にコルクで蓋をし

細い匙を差し込んで粉をすくい出す容器が生み出され、

玉や瑠璃・硝子・陶磁器・象牙などを素材とした精工な鼻煙壺が誕生していきます。

 

 

なかでも”内絵鼻煙壺”は、

小さな口から耳かきほどの竹製の筆を差し込んで

内側に絵を描くという精緻な技法がもちいられました。

神仏の姿や自然を謳歌する春の花々、

読み仮名が恋につながる

仙女の愛する果実また、

神獣鳳凰や龍

など文様には福を呼び込む縁起の良いモチーフが選ばれ

掌の上の芸術品”として人気を博しコレクションの対象となっていきす。

やがて海外からの使節にお土産として渡された中国の鼻煙壺は、

ヨーロッパに渡り香水瓶のデザインの元となっていくのでした。

 

 

 

お香屋さんにいくと紫檀や黒檀・桜の木などで作られた

伝統的な円形の塗香入れを見かけることでしょう。

塗香とは、手や身体に香をすり込んで

穢れをはらい清めるためのパウダー状のお香のことを指します。

香の使用が始まったとされる酷暑の国インドでは、

油に白檀のペーストや香る材をいれた香油をつくり

頭痛や発熱のおりに額や身体に塗って熱苦を取り去り

清涼感を得る風習がありました。

なかでも白檀は非常に高い殺菌力をもち、

皮膚を浄化して毒を消す力が秘められているといわれ、

塗香の主原料にもなっています。

 

 

私は常々、好みの塗香入れを探してきましたが、

今回硝子の鼻煙壺に出会ったことで

皆さんと一緒に塗香の調合をと思い立ちました。

塗香は神仏や自分の心と向き合うときに使うもの、

故にくだけすぎずまた長く愛用できるものを求めていたのです。

 

インドで誕生した仏教が日本へとたどり着く道筋となった国・中国美しい鼻煙壺を器とし、

それぞれの感性をいかしたご自分だけの塗香を調合してみましょう。

 

 

 

2014年2月10日 up date
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